受注は伸びても、利益の柱をつくりきれなかった
今回支援したのは、法人向け製品を製造・納品するA社です。扱う製品は大きく2種類。なかでも主力製品は売上の40%以上を占め、もう一方の製品と比べて2倍以上の利益を生む高単価品でした。
ところが、受注の伸びに生産が追いつきません。注文を取りこぼしたり、お客様をお待たせしたりする状況が続いていました。
「一番利益が出る製品を、もっと作れるようにしたい」。この相談から、製造現場の見直しが始まりました。
生産を止めていたのは、5つの「決まっていない」
主力製品の製造現場を確認すると、作業者の腕ではなく、置き場所や手順、判断基準が決まっていないことに原因がありました。
置き場所:設計図・工具・部品が散らばっている
必要なものの定位置がなく、探す時間と取りに行く時間が作業のたびに発生していました。
手順:ベテラン作業者にしか分からない
手順書がなく、主力製品をつくれるのは特定の作業者だけ。勘やコツが言葉になっていないため、ほかの人には任せられない状態です。
在庫:部品の残数を確認できない
在庫を管理する仕組みがなく、不足に気づくのは製造の途中でした。そのたびに作業が止まり、仕入先への急な発注が続きます。
品質:完成品の合否を判断する基準がない
どこまで仕上げれば合格なのかが曖昧で、念のための手直しが重なっていました。作業者と責任者の判断が分かれることもあります。
役割:在庫確認と発注の担当が曖昧
在庫の確認と部品の発注は作業者任せ。部品が減るたびに離れた事務所へ足を運び、電話やFAXで発注していました。担当が定まっていないため、発注や確認の行き違いも起きます。
一つひとつは小さな問題に見えても、重なれば主力製品の生産量を大きく削ります。
まず、観察と計測で詰まりの原因を確かめる
改善策を決める前に、主力製品ができるまでの流れを最初から最後まで観察しました。作業の様子は写真と動画で記録し、工程ごとの所要時間も計測。経営者、現場責任者、作業者、事務担当から、それぞれの困りごとを聞き取っています。
記録と数字を並べることで、製造時間を押し延ばしている原因が明確になりました。経営者と現場が同じ事実を見ながら、どこから直すかを決められる状態です。
配置・手順・在庫・品質・役割を、一つの流れとして整える
5つの課題は互いにつながっていたため、一部だけを直すのではなく、製造の流れ全体を組み直しました。
- 01
探さず、取りに行かずに済む配置へ
紙の設計図はタブレットで閲覧する形へ変更。工具は一緒に使う消耗品とセットにし、使用頻度の高い部品ほど手元に近い場所へ置きました。
作業順に合わせて配置と動線を整え、移動を最小限に抑えています。
- 02
ベテランの勘とコツを、手順書にする
特定の作業者にしか分からない業務を棚卸しし、全工程を見える形にしました。勘やコツは聞き取りを重ねて言語化。文章だけでは伝わりにくい部分を写真で補い、ほかの作業者でも同じ手順でつくれるようにしています。
ベテランの技能を次の世代へ引き継ぐための土台にもなりました。
- 03
部品の在庫を、誰でも確認できるようにする
部品の種類が多くても、何がいくつあるかを確認できる在庫管理の仕組みを導入しました。作業場のタブレットから在庫を見られるため、離れた事務所まで確認に行く必要はありません。
あわせて、在庫を確認するタイミングも社内ルールとして定めています。
- 04
写真を使い、完成品の合否をそろえる
これまでに製造した製品を洗い出し、基準を満たすものと、お客様から指摘を受けたものを部位ごとに撮影しました。写真を見ながら現場責任者とすり合わせ、合否の基準を明確にしています。
作業者が迷わず判断でき、必要以上の手直しで生産が遅れない状態へ切り替えました。
- 05
作業者を発注業務から切り離す
現場作業者、現場責任者、事務の役割を整理しました。作業者任せだった在庫確認と部品の発注は、事務が担当する形へ変更。作業者は事務所との往復から解放され、製造に集中できます。
数字で見る、改善後の変化
配置、手順、在庫、品質、役割を一体で見直したことで、主力製品1台の製造時間は16時間から3時間へ短縮。人を増やさずに、約5分の1まで減らしました。
| 項目 | 改善前 | 改善後 |
|---|---|---|
| 主力製品 1台の製造時間 | 16時間 | 3時間 |
| 主力製品の売上 | ― | 前年度比 約1.8倍 |
| 主力製品を担当できる人 | ベテラン作業者のみ | 手順書に沿って他の作業者も担当 |
| 部品の発注 | 欠品のたびに仕入先へ急な発注 | 事務が在庫を確認して計画的に発注 |
生産できる量が増え、主力製品の売上は前年度比で約1.8倍に伸びました。人員は増やしていません。
手順書があるため、ベテラン以外の作業者も主力製品を担当できます。製造にかかる時間が短くなり、残業も減少しました。
在庫確認と発注を事務へ移したことで、欠品のたびに仕入先へ急な発注をお願いする事態も解消。役割と品質基準がそろい、社内の行き違いも大きく減っています。
生産が追いつかないときこそ、人を増やす前に流れを見る
受注が増えて生産が追いつかなくなると、最初に「人を増やすしかない」と考えがちです。しかし、現場には売上を生まない時間が隠れていることがあります。
- 探す・歩く・待つ時間を数字にする:数分のロスでも、人数と回数が重なれば生産量を大きく押し下げます。
- ベテランの頭の中を手順と基準にする:勘やコツを言葉と写真で共有すれば、特定の人に頼らず、品質を保ちながら製造できます。
- 設備投資の前に、配置と役割を整える:今回の中心は、新しい機械ではありません。置き場所、動線、手順、在庫管理、品質基準、役割分担を見直した成果です。
GDXは、代表が直接現場に入り、作業の観察・計測から改善策の実行、社内への定着まで伴走します。「受注に生産が追いつかない」「特定の人にしかできない仕事がある」。原因が整理できていない段階でも、お気軽にご相談ください。